1. LEED®とは
LEED®とは、米国グリーンビルディング協会(USGBC®:U.S. Green Building Council®)が開発、及び運用を行っているビルト・エンバイロメント(建物や都市の環境)を評価する認証制度です。省エネと環境に配慮した建物・敷地利用を先導するシステムということで、Leadership in Energy and Environmental Designと名付けられました。頭文字をとり、LEED®(リード)という名称で呼ばれています。審査は、米国のGreen Business Certification Inc.™(GBCI®)が行います。
USGBC®によるとLEED®は健康的、且つ、経済性、効率性、低炭素を実現することができ、その他にも気候変動対策やESGゴールの達成、レジリエンスの向上、公正なコミュニティを強化する重要な役割を担っていると言えます。
LEED®は、エネルギー、水、健康といった建物の1つの要素に注目するだけでなく、最高の建物をつくるために重要な要素を全て織り込み、建物の全体像を見る総合的なシステムです。LEED®は、次に挙げるような点において、優れた建物の実現を目標としています。
- ・ 気候変動の抑制
- ・ 健康増進
- ・ 水資源の保護と復元
- ・ 生物多様性の保護と生態系の強化
- ・ 持続可能で再生可能な建材循環の促進
- ・ コミュニティの生活の質(QOL)の向上
LEED®は1998年に米国で始動し、2023年の3月にUSGBC®が公開したデータによると、全世界185カ国以上において、プロジェクト登録が行われるまでに普及しています。世界でのLEED®の普及状況やLEED®プロフェッショナル数などの最新情報はこちらよりご確認いただけます。国名を選ぶと、各国毎の要約を見ることができます。
近年では米国だけではなく、日本を含むアジア地域においても、急速に普及が進んでいます。LEED®を米国外の国々でも適用するため、各国でLEED®普及を目指す団体が組織される動きがあり、各国の基準をLEED®においても利用可能とするなど、USGBC®との間で協調行動が取られています。日本では、一般社団法人グリーンビルディングジャパン(GBJ)が2013年に設立されました。
2. LEED®の種類・対象となるプロジェクト
LEED®では、評価対象の建築物の用途に応じて、そのプロジェクトに最適なシステムを選択し取得申請を行います。それぞれのLEED®認証システムの特徴と対象となるプロジェクト種別は以下の通りです。
■ LEED® for Building Design and Construction 新築建物の設計と施工
LEED® for Building Design and Construction(BD+C)は、新築、または大規模改修を行う建物全体について評価します。BD+Cの中でもさらに、建物の用途・特性に合わせ、最適なシステムを選択します。
- ・New Construction and Major Renovation
- ・Core and Shell Development
- ・Data Centers
- ・Healthcare
- ・Hospitality
- ・Retail
- ・Schools
- ・Warehouses and Distribution Centers
■ LEED® for Interior Design and Construction 内装の設計と施工
LEED® for Interior Design and Construction(ID+C)は、建物内装の設計、及び施工工程を評価します。テナント利用事業者が、テナントスペースについてLEED®認証取得を目指す場合に選択する評価システムです。
- ・Commercial Interiors
- ・Retail
- ・Hospitality
■ LEED® for Building Operation and Maintenance 既存建物の運用と管理
LEED for Building Operation and Maintenance(O+M)は、既存建物の管理・運用改善、及び小規模改築を評価します。BD+C(新築)と異なり、認証にArcを利用することができるのが特徴です。
Arcとは
- ・Existing Buildings
- ・Existing Interiors
■ LEED® for Residential Design and Construction (Homes) 住宅版
LEED® for Residential Design and Construction (Homes)は、戸建てと3階建て以下の集合住宅の設計、及び施工を評価します。
■ LEED® for Neighborhood Development エリア開発
LEED® for Neighborhood Development(ND)は、複合的なエリア開発の計画段階から設計・施工までを評価します。エリア開発の進捗具合に応じ、認証システムを選択します。
- ・Plan
- ・Built project
■ LEED® for Cities and Communities 都市・コミュニティ版
都市とコミュニティの持続可能性とクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)の向上を目的とした認証システムです。自然生態系、エネルギー、水、廃棄物、交通、及びQOLに関して重要なポイントを網羅的に評価します。
民間企業、エリアマネジメント組織、教育機関なども申請者となり得るLEED® for Cities と LEED® for Communities には、計画段階の都市・コミュニティを評価するPlan and Design版と、既存の都市・コミュニティを評価するExisting版があります。
LEED® for Cities
行政単位(日本では主に市区町村単位)で取り組む認証プログラム。
LEED® for Communities
地区・地域・複数街区など、行政単位よりも小さい単位で取り組む認証プログラム。
LEED® BD+Cを初めとする「設計」を評価対象とするシステムでは、新築時に1度評価を受けるのみですが、「運用」を評価対象とするLEED® O+Mでは認証取得後、少なくとも3年に1度認証を更新していくことが推奨されています。LEED®認証システムの評価内容も、数年に1度の頻度でアップデートされます。
3. 評価項目
LEED®は、建物と敷地利用の環境性能を様々な視点から評価するため、複数の評価項目を設けています。各項目は、その分野の環境性能を評価する必須項目と選択(加点)項目で構成されています。
LEED®を取得するには、必須項目の要件は必ず満たさなければいけません。その上で、選択(加点)項目の要件を満たすことで、その項目に割り振られているポイントを獲得することができます。全項目の合計得点は110点です。
LEED®の各評価システムは以下の評価項目で構成されています。評価項目、及び要件は選択する認証システムにより異なります。
■ LEED® BD+C/ID+C/O+M/Homes
評価項目、要件の詳細、及び各要件の重みは選択する認証システム(BD+C/ID+C/O+M)により異なります。
評価項目名(Category)
評価項目説明
Integrative Process
統合プロセス
(※O+Mには含まれません)
システム間の相乗効果の早期解析を通じ、高性能で費用対効果の高い成果獲得を目的とし、計画の初期段階で各分野におけるプロジェクトメンバーが参加するように促し、目標を設定します。
Location and Transportation
⽴地と交通
サステイナビリティの観点からプロジェクト用地の立地と交通条件を評価します。
Sustainable Sites
持続可能な敷地
(※ID+Cには含まれません)
生態系や水資源への影響をなるべく少なくすることを目的とし、生物多様性保全、雨水の流出抑制、ヒートアイランド対策、光害の軽減などを評価します。O+Mでは、新築時のLEED NC認証取得有無や敷地管理ポリシーの作成も評価対象です。
Water Efficiency
⽔の効率的利⽤
効率的な灌水方法、節水器具の使用、雨水や中水の有効利用などにより、建築物の内外で使う上水の削減を評価します。
Energy and Atmosphere
エネルギーと⼤気
設備や外皮の省エネ性能、グリーン電力購入、フロン(CFC)冷媒を使用しないことなどを評価します。設計者・施工者から独立した第三者による設備のコミッショニング、O+Mでは、建物エネルギー監査もこれに含まれます。
Materials and Resources
材料と資源
持続可能な建築資材の使用や廃棄物削減を促すため、建設廃材や建物の廃棄物の分別・リサイクル、リユース建材・再生材料含有建材・地場産材の利用を評価します。O+Mでは、定期的な廃棄物に関する監査の実施や購入ポリシー、リサイクルポリシーの作成を評価します。
Indoor Environmental Quality
室内環境品質
快適な室内環境を実現するための、換気量、たばこの煙の管理、温熱・光環境、自然光の取り入れ、及び窓からの眺望などを評価します。O+Mでは、環境と建物利用者の健康に配慮したグリーン清掃ポリシーの策定と実施状況についても評価します。
Innovation
⾰新性
LEED®における規定の要件を上回る性能や、革新的なアイデアにより、卓越した設計(性能)を実現したプロジェクトを評価する項目です。LEED®認定プロフェッショナルがプロジェクトチームに参加していることでも加点となります。
Regional Priority
地域での重要項⽬
地理的に特殊な環境、社会的公正、公衆衛生に関する優先事項に取り組むクレジットの達成へのインセンティブが付与されます。
■ LEED® ND
Smart Location and Linkage
スマートな立地選択と周辺とのつながり
開発エリアの選択と敷地利用について、自然資源の保全や無秩序なスプロール化の回避、公共交通の利用可能性などの観点から評価します。具体的には、上下水道および交通インフラの整備済みエリアであること、開発エリア内での生物生息域・湿地・水域・緑地・農地の保全、洪水リスクの回避などが求められます。
Neighborhood Pattern and Design
近隣街区のパターンとデザイン
開発エリアのウォーカビリティ、周辺エリアとの接続性、徒歩圏内の生活利便施設の充実度などを評価します。コンパクトな開発、アフォーダブルハウスの提供、パブリックスペースの充実、緑陰豊かな街路整備などの取組みも本項目の重要な視点です。
Green Infrastructure and Buildings
グリーンなインフラと建物
開発エリア内のインフラ及び建物の環境性能を評価します。省エネ、省資源、節水、廃棄物管理、再エネ利用、地域冷暖房の利用、ヒートアイランド対策、都市型集中豪雨・水害対策、歴史的建築物やランドスケープの保全などが求められます。開発エリア内でLEED®認証を取得した(する)建物が1棟以上あることも必須要件の一つです。
Innovation
⾰新性
LEED®における規定の要件を上回る性能や、革新的なアイデアにより、卓越した設計(性能)を実現したプロジェクトを評価する項目です。LEED®認定プロフェッショナルがプロジェクトチームに参加していることでも加点となります。
Regional Priority
地域での重要項⽬
地理的に特殊な環境、社会的公正、公衆衛生に関する優先事項に取り組むクレジットの達成へのインセンティブが付与されます。
■ LEED® for Cities and Communities
Integrative Process
統合プロセス
分野を横断する多様な専門家やステークホルダーで構成されたチームで検討を進める統合的計画プロセス(Integrative Planning and Design Process)の実践が求められます。さらに、グリーンビルディングを奨励する政策、インセンティブ、プログラムの有無と内容も評価します。
Natural Systems and Ecology
自然システムとエコロジー
地域生態系保全、建設活動による汚染の防止、コミュニティの健康と福祉に必要な緑地の創出と保全、環境の質の向上を求める項目です。光害の低減や、レジリエンス計画も本項目の範疇となります。
Transportation and Land Use
交通と土地利用
都市のスプロール化抑制と公衆衛生改善を目的とし、コンパクトな開発と多様な用途へのアクセスを評価します。「ウォーカビリティ Walkability」と「バイカビリティ Bikeability」は本項目の中心的概念であり、車依存からの脱却が求められます。代替燃料車やスマートモビリティの推進も評価対象となります。
Water Efficiency
節水
都市で高まる水需要への対応、水質の維持、漏水防止、雨水の利用、都市洪水の管理など、多様な観点から水に対して取り組む項目です。グリーンインフラの活用なども評価されます。
Energy and Greenhouse Gas Emissions
エネルギーと温室効果ガス排出
都市が安定的な電力への容易なアクセスを提供していること、エネルギー使用による環境への悪影響を軽減することを奨励する項目です。温室効果ガス(GHG)の排出量抑制、再生可能エネルギーの推進、脱炭素は、本項目の中心課題です。
Materials and Resources
材料と資源
物質の大規模な集積地である都市において、リニアエコノミー(直線的大量生産・消費・廃棄経済)からサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を推進する項目です。リサイクル・リユース・リデュースの取組みやこれらを支えるインフラの整備、責任ある調達などを評価します。
Quality of Life
クオリティオブライフ
全ての人にとっての繁栄、健康、安全を促進するための設計や計画を扱う項目です。都市やコミュニティの人口構成や属性を評価し、適切な社会インフラを用意し、経済成長の道筋を準備することを求めています。住民参加機会、社会的公正性、人権、環境正義、アフォーダブルな住宅・交通手段なども評価の対象となります。
Innovation
⾰新性
LEED®における規定の要件を上回る性能や、革新的なアイデアにより、卓越した設計(性能)を実現したプロジェクトを評価する項目です。LEED®認定プロフェッショナルがプロジェクトチームに参加していることでも加点となります。
Regional Priority
地域での重要項⽬
地理的に特殊な環境、社会的公正、公衆衛生に関する優先事項に取り組むクレジットの達成へのインセンティブが付与されます。
※アイコン画像はUSGBC® LEED 公式ホームページより転載
4. LEED®認定プロフェッショナル
LEED® 認定プロフェッショナル(LEED AP®)とは、USGBC®が認めるLEED®についての専門知識を持つ技術者です。BD+C、ID+C、O+M、ND、Homesの専門分野ごとに資格が用意されており、資格試験に合格した者が認定プロフェッショナルとなります。LEED® 認定プロフェッショナルは、認証取得を目指す建物と敷地利用が、LEED®評価システムの各要件を満たすために必要なアドバイスなどを行います。全ての専門分野について、ヴォンエルフにも有資格者が複数在籍しています。
5. 認証のプロセス
LEED®認証取得を目指すプロジェクチームには、ビルオーナー、設計者、管理者、施工者、LEED® コンサルタント、コミッショニングを行う技術者、エネルギーモデリングを行う技術者など、多分野の専門家の参加が必要です。
認証の申請書類の提出、および、申請作業に関するやりとりは、全てオンライン上で行われます。
<申請手順>
1.LEED® Onlineへの登録
LEED® Onlineへプロジェクトの基本情報(プロジェクト名、所在地、着工予定日、竣工予定日、ビルオーナー名など)を入力し、プロジェクト登録が完了した段階で、LEED® Onlineの利用が可能になります。
2.申請書類の準備
各項目の申請に必要な情報を用意し、申請書類を作成します。
3.審査方法の選択
LEED® BD+C 、及びID+C認証の申請は、一括審査と分割審査(設計段階審査+建設段階審査)の2つのパターンからどちらかの手順で行います。どちらを選択するかは、申請者が決められます。
4.審査
一括審査を選択した場合、設計関連、及び建設関連の両項目について、申請書類の作成が終了した段階で、同時に初回審査申請を行います。初回審査完了後、USGBC®の審査チームから審査結果が質疑事項とともに返却されます。申請者は質疑事項を踏まえ、追加資料と補強説明を加えた最終審査書類を作成、提出する必要があります。最終審査で確定した得点に応じて、LEED®認証が交付されます。分割審査を選択した場合は、初めに設計関連項目について、次に建設関連項目について、それぞれ審査申請を行います。どちらも上記の一括審査の申請手順と同様に、[初回審査→審査結果・質疑の返却→追加資料・補強説明→最終審査]を経て、認証が交付されます。
6. 評価ランク
LEED®は、必須項目を全て満たした上で、加点項目での得点に応じてサーティファイド(Certified)、シルバー(Silver)、ゴールド(Gold)、プラチナ(Platinum)の4段階で評価されます。それぞれ40、50、60、80点以上の得点が必要となります。
7. 認証取得にかかる費用
LEED®認証取得には、コンサルティングフィーの他にプロジェクト登録費用、及び審査費用が必要です。プロジェクト費用は、一括・分割の審査の別、審査するプロジェクトの延床面積により変動します。費用の詳細については、こちらをご参照下さい。
http://www.usgbc.org/cert-guide/fees#bdc
注:USGBC®、及びGBCI®は、ここで紹介されたLEED®の要約や和訳に関与しておらず、全てヴォンエルフによる編集です。詳細はこちらをご参照ください。usgbc.org/LEED
Arcとは
Arcは、建物や都市のエネルギー、水、廃棄物、交通、快適性という5つのKPI(キーパフォーマンスインディケーター:最重要指標)について、世界中から収集するグリーンビルディングのデータベースなどと比較を行った上で、パフォーマンススコアと呼ばれる90点満点での評価を行います。その評点はデータ入力をするたびに更新され、現状の運用に基づくパフォーマンススコアをリアルタイムに確認することができます。
「現在の成績」を起点にして、新たに設定した目標に向かう進捗を可視化し、達成度が高い項目と改善が必要な項目を関係者全員に共有できるように、システムが設計されています。Arcを利用することで、複数の関係者の間に生じがちな、意思決定プロセスの複雑さやハードルを取り払い、物事をシンプルに推し進めることが可能になります。
Arcは、建物や都市の環境や健康を評価する国際認証LEED®やWELLの審査を司るGreen Business Certification Inc.™(GBCI®)の100%子会社Arc Skoruが開発した、不動産ESGパフォーマンスの動的スコアリングモデルをグローバルに提供するプラットフォームで、日本では株式会社Arc Japanが普及促進を行っています。
USGBC®とGBCI®は過去25年にわたり、グリーンビルディングの運用データを収集してきました。LEED®への登録の如何に関わらず、サステイナビリティと人間の健康に係る性能向上を目指す全てのプロジェクトが利用できるシステムです。全てのプロジェクトとは、オフィス、小売店舗、ショッピングモール、公共施設、ホテル、学校、物流施設、スポーツ施設、集合住宅、病院、高齢者介護施設、工場など世界中にある多様な用途のビル、そして複数のビルが存在する街区、コミュニティ、シティ(自治体)を対象とするものです。
「新築」から「既存建物」への評価の継続性という観点においても、LEED BD+C(新築版LEED)を取得した建物が運用開始後にLEED O+M(既存版LEED)を適用し、その後のRe-Certification(再認証)への移行を、上述のパフォーマンススコアを利用する極めて簡易な手続きで完了させることができます。同様に「新規の面的開発」や「既存街区・自治体」についても、LEED ND(街区開発版LEED)を取得した街区、及びLEEDコミュニティの<計画>からLEEDコミュニティの<既存>やLEEDシティ認証へ移行する際にも上述のパフォーマンススコアを活用することができます。また、新規で「既存街区・自治体」が認証を取得する際にもパフォーマンススコアを利用できます。
また、Arcは前述の認証制度に加え、気候変動リスクの評価、同種のプロジェクトとパフォーマンスを比較した場合のパーセンタイル値の算出、GRESBエネルギー平均値との比較、CRREMパスウェイにおける座礁ポイントの確認など、様々な指標においてのプロジェクトの現状の成績を一元的に把握するプラットフォームとしても機能します。今後もアセットレベルでのサステイナビリティへの取り組みをサポートするツールとして、新機能を実装していく予定です。